私たちは休み方を教えてもらえない
「たまには遠くに出かけてリフレッシュでもして来たら?」
新卒でベンチャーに勤めていたとき、先輩のベテラン社員から言われたことがあった。
それを言われた当時、私は
「なんて無責任な人を言うんだこの人は」
と率直に思った。
労働時間は長いし、土日を使って資料作成しないと平日の仕事に間に合わない。
頭の中は常に仕事のことで一杯で、それを忘れて出かけるなんてできなかった。
たとえ出かけたとしても、頭の片隅には常に仕事のことがあり、行き帰りの電車ではスマホで調べ物をするのが常だった。
そうするのが、ベンチャーで働く人間なら当たり前だと思い込んでいた。
義務教育でも、高校でも、大学でも、社会人の新人研修でも、 休み方 については誰も教えてくれなかった。
労働力を再生産するには、休息が必要なはずなのに。
そうこうしているうちに私の身体と精神は、早々に限界を迎えて、精神病に陥っていった。
生きるために労働しているのか、労働のために生きているのか
そもそも、 なんのために私達は労働するのだろうか?
理由はひとそれぞれだが、 生きるため だろう。
生きるには金がいる。
金が無ければ、 住む場所も着る服も飯も買えない。
だから金を稼ぐ。
金を稼ぐには、誰かの役に立つ必要がある。
そのために手っ取り早い手段が労働だ。
しかし、気がつけば私達は 労働のために生きるという逆転現象にしばしば陥る。
寝ても覚めても仕事のことで頭が埋め尽くされる。
ベッドに横になっても、頭のなかをぐるぐると仕事のことが駆け巡る。
朝起きてもスッキリ目覚めず、寝ていたのか起きていたのかよくわからない。
休めたという実感がなく、まるでゾンビのように毎日労働に向かう。
一息つける時間もなく、 楽しいことや将来の夢を考える余裕などない。
なんのために生きているのか。
自分の人生はこんなものなのだろうか。
SNSを眺めると、他の人間はみんな楽しそうにしている。
自分だけが苦しい思いばかりして、なんだか惨めな気分になる。
こんなはずではなかったのに。
薬を飲むよりも正しく休む
精神的に疲弊し、鬱の一歩手前の人たちが多分たくさんいる。
実際に鬱になってしまう人もいる。
自分もそういう人間だった。
精神科やメンタルクリニック、心療内科にも足を運んだ。
向精神薬を処方されて飲んでいた期間もある。
しかし、 薬は現実を変えてはくれなかった。
結局のところ、自分で生活習慣や思考パターンを変えることでしか、苦しい現実から逃れる術はない。
断っておきたいが、薬に意味がないと言っているわけではない。
もちろん、鬱のときに、 脳の機能が正常に働かない状態を改善する という点においては効果を発揮するだろう。
ただ、 根本的な原因を断ち切らないと、再発するリスクは残ったままだ ということだ。
そのために必要な要素の一つが
正しく休むこと
である。
勇気を持って休む
そもそも日中に8時間以上働き、それ以外の時間に仕事のことを考えるのは 働き過ぎ である。
私達の給料は資本主義の原則に基づいて、 明日の労働を再生産するための費用 として支払われている。
だから、労働時間が済んだら、さっさと仕事を離れて休むべきなのだ。
あなたの人生は、雇用主が利益を得るためにあるわけではない。
「私が休んでしまうと、現場が回らない。」などというのは、幻想でしかない。
社会人として働いていると、経営層やマネジメント層は、そういう都合の良い洗脳を現場の人間にほどこしてくる。
しかし、誰かが一時的に欠けても、最終的にうまく片付けるのが、上の人間の仕事だ。
私達労働者に課せられている義務は、法定労働時間を毎日コンスタントに消化することだけだ。
勇気を持って休息しよう。
退勤の打刻をした瞬間に、労働者の仮面を脱ぎ捨てる。
19時に退勤してから、24時に寝るまでの5時間、 明確な意思を持って仕事からおさらばする。
Slackの通知が来ようが、クライアントからメールが来ようが関係ない。
あなたの今日の仕事は終わったのだ。
本日の営業は終了しているのだから、閉店ガラガラでシャッターを閉めてしまえばいい。
そんなことよりも、眠るまでの 自分のための5時間を、いかに充実させるかを考えるべきだ。
晩ごはんに何を食べよう、何をつくろう。
週末はどこに出かけよう、新しい映画が公開されてないだろうか。
季節が変わったから、春物の服でも買いに行こうか。
桜が散る前に花見でもいきたいな、友人に連絡を取ってみよう。
最初はどうしても仕事のことが気になるだろう。
だが、あなたの人生は仕事のためにあるわけではない。
仕事の役に立たないと思えることこそ、人生に彩りをもたらしてくれるはずだ。
エンジニア向けのおすすめの休み方
最後に、私自身がいろいろ試してみた中で、 今でも続けている休むための習慣 を紹介しようと思う。
土曜日に部屋を掃除する
朝起きたら部屋を掃除する。
家事は適度な運動にちょうどいい。
ついつい土曜日は昼過ぎまで寝てしまうが、なるべく午前中に起きる。
アラームをかけずに自然に目が覚めるまで寝てればいいが、絶対に二度寝だけは回避する。
布団の中でスマホでSNSを眺めながら、夕方までゴロゴロしているのは最悪だ。
さっさと布団から出て、スマホを捨てて家事に励もう。
起きたらカーテンを開けて、掃除機をかける。
シンクに溜まった洗い物を片付ける。
洗濯する。トイレ掃除をする。
適度に身体を動かすことが、アクティブな休息になる。
あてもなく出かける
街に出よう。
PCは家において、代わりに本でも持っていこう。
ノートとペンを片手に、気に入った雰囲気のカフェで日記を書くのも良い。
出かけよう。
散歩は非常に脳に良い。
普段PCの前から1日中動かない私達の脳は、変わらない景色に退屈している。
実際にそういう生活は、外界からの刺激が非常に単調になる。
そうすると脳は、使っていない機能をどんどん退化させていってしまう。
だから街に出よう。
外にはたくさんの感覚刺激が溢れている。
車の音、人の音、風の音がする。
街路樹の色、空の色、街の色が見える。
店先から美味しそうな匂いもするし、風に乗ってきた春の匂いや、雨の匂いだってする。
歩けば足の裏から地面の感覚が伝わるし、まだ肌寒い春先の風を肌で感じることもできる。
街に出て、普段退屈している脳を、少し揺さぶってやろう。
脳にとっては休息になる。
趣味に没頭する
本当の自由は、没頭の中にこそある。
どこかの誰かの受け売りだが、そのとおりだと思う。
あなたの趣味はなんだろうか?
幼い頃好きだった遊びはなんだろうか?
学生時代に打ち込んだものはあるだろうか?
好きなことに、久しぶりに没頭してみよう。
映画を見るでも良い。
歌を歌いにカラオケに行くでもいい。
運動をしに体育館に行くでもいい。
絵を書くでもいい。
コーディングが好きなら何か作ればいい。
読書が好きなら、仕事と関係のない、読みたかった小説を読もう。
趣味に時間を費やすことに、後ろめたさは感じなくていい。
なぜなら 「面白い、楽しいと感じること」こそが、生きることの醍醐味 なのだから。
それを奪ってしまうことは、自分自身の尊厳を自らの手で損ねることだ。
Work Hard, Play Hard
エンジニアの仕事は楽ではない。
知的なタフさだけでなく、体力的・精神的なタフさも要求される仕事だ。
だからこそ、私達は タフに休まなければならない。
タフに休むとは、 休むための時間をケチらないことだ。
ハードに仕事をした週は、ハードに遊ぼう。
何も、激しく遊べといっているわけではない。
夜の街に出かけていってクラブで酒を浴びるように飲むのは、正しい休み方とは言えないし、個人的にはおすすめできない。
酒でストレスを解消するのは、いわゆる 疲労のマスキング である。
そうではなく、 心が休まるような遊び方で、休みを充実させよう。
それは、平日におざなりにした生活を整えることでもあるし、
忙しさを理由に、自分におあずけしつづけてきた趣味の時間を、ご褒美として与えることでもある。
休むことは誰も教えてくれない。
でも今日からでも、休む技術は身につけられる。
戦いの日々に疲れたあなたが、少しでも心安らかに過ごせるよう祈っている。





